舞台版『四畳半神話大系』
人気小説家・森見登美彦氏の傑作小説である『四畳半神話大系』を日本で初めて舞台化しました。京都の学生による京都の学生の物語ということなどがSNSで話題を呼び、冬公演史上最高の集客を記録しました。構想から上演まで約1年にも及び、最も頑張った活動の一つです。
1.公演概要
2018年の12月、私は所属する劇団である立命館大学新演劇研究会劇団月光斜にて、『四畳半神話大系』という作品を上演しました。
本作品は、小説家・森見登美彦氏の小説を元にした、日本で初めての舞台化でした。私は、当該公演にて脚本と演出(公演の最高責任者)を担当しました。構想・執筆期間としてはおよそ10ヶ月を要し、団体全体の公演期間は約1ヶ月半をかけた、全体として約1年にも渡って製作された非常に大きなプロジェクトでした。
その甲斐もあり、学内外を問わずご好評を頂き例年の同時期の公演に比べ、30~60%も集客数を伸ばし、598名という集客を記録しました。この記録は、2018年度の同シーズンでは関西の学生劇団としてはトップの集客であると共に、弊団体の冬公演としても歴代最高の記録です。
これらの背景には、企画構想段階からの布石や、積極的な企画運営などがありました。本ページでは、私が大学時代に最も頑張った活動の一つである『四畳半神話大系』の初舞台化を、成功させるまでの記録や製作過程をまとめます。
2. 『四畳半神話大系』を上演するにあたって
2-1.『四畳半神話大系』という作品
『四畳半神話大系』とは2005年に刊行された、森見登美彦氏の小説です。京都の大学に通う3回生の男子学生が、「もしも一回生の時に他の選択をしていたら」ということを夢想することで展開される、並行世界を描いた作品です。2010年にはアニメ化もされ、全国にそのファンがいる人気作です。
2-2. 『ツキタタミ(=月光斜版四畳半)』をやる意味
①メタ的な作品構造
作品を読んだ時、私たちとの親和性の高さが非常に目につきました。「京都」「大学生」「サークル」など、共感できる点や思わず自己投影したくなるような描写、ゆかりのある地名といった、主人公は他ならぬ私達自身ではないかと思ったのです。そこで、「もしこの世界が四畳半の主人公の選択の一つだったら」と夢想した時、この団体にしかできない作品が作れるのではないかと思ったのです。
②劇団の可能性の模索
この作品は、非常に認知度が高く、学内外問わずファンが多数います。そこで、この作品を上演するとなれば、今まで来なかった新規の層もターゲットに据えられるのではないかと考えたのです。また、表現や物語構成、初舞台化といった越えるべきハードルを明確に掲げる作品であり、もしこの作品を成功できた時、弊団体は新たな作品にも挑戦できると確信しました。
3.脚本執筆にあたって
前述の通り、この作品はもともと森見登美彦氏の同タイトルの小説が原作となっています。原作は約400ページにものぼり、2010年に放送されたアニメ版も12話に分かれての放送でした。脚本化は小説版をベースに行い、全4章から構成されるオムニバス形式で展開しました。
(著作権の関係で、独自製作版である『序章:或る世界線の四畳半主義者』のみ公開)
【製作スケジュール】
2017年12月〜2018年3月:小説版文字起こし
3月〜4月:小説の構造分解(シーン分け、フローチャートの製作)
5月〜6月:大筋を決めるプロット製作[Ver.0.1~0.5.2:ト書きとチャートのみ]
6月〜7月:プロト版[Ver.1.0~1.7:セリフ有り、注釈付き]
7月〜9月:提出用脚本の製作[Ver.2.0~2.3:脚本会議版]
9月末:第一回脚本会議
10月上旬:脚本会議を踏まえた改稿[Ver.3.0~3.4:第二回脚本会議版]
10月中旬:第二回脚本会議
10月下旬〜11月中旬:追加改稿[Ver.4.0~4.3:公演期間中の加筆修正版]
11月下旬〜12月中旬:公演期間に伴う加筆修正
【製作記録】
改稿回数:41回
最終稿数:75ページ
4.公演期間の活動
脚本会議
実際に脚本の読み合わせを行い、脚本の実現が可能かどうかや改稿点がないかを洗い出していきます。今作の場合は、特に原作との齟齬や、文学的表現と演劇的表現の違いなどが特に議論し、これらをもとにより質の高い作品作りを目指しました。
各種会議
今作を作り上げるにあたって、10の部署(舞台、照明、音響、衣装、美術、振付、制作、宣伝美術、情報宣伝、Web)に仕事を分担し、作業に臨みました。演出は演技指導に限らず、これら全ての部署との会議やチューニング作業が必要となります。公演期間のその全ての時間、文字通り「朝から朝まで」全員といい作品を作るために向き合います。
稽古
脚本をもとに、役者たちとシーンを作っていきます。今作は、他の公演に比べて非常に多くのシーンで構成されているため、シーンごとのつながりや全体としてのテンションの差異をつけることが重要でした。また、小説内では文字で表現されていたものを、動きや構図などの演劇的表現に置き換えていく作業が必要とされました。
本番
演劇の魅力はその「ライブ感」にあります。5ステージ全てで同じ脚本を使いますが、一度として全く同じ舞台にはなりません。私たちは、常に最大瞬間風速を記録しながら、作品を向上させていくことを考えていました。その思いはお客様の感想から、成就されたと確信しました。
5. 広報戦略の一例
ここでは、上演情報を発信するにあたって実施した広報の一例を紹介します。通常であれば、ビラ配りやSNS更新などが広報の中心になります。しかし、そのネームバリューを活かして、「観劇初心者」をターゲットに据え、学内外を問わずに広く宣伝を行いました。終演後のアンケート調査などを分析すると、人目につく機会が多いことが集客数増加に大きく作用していることがわかり、以降の公演運営にも大きな影響を及ぼしました。
5-1. 速報チラシによる広報戦略
一般的に弊団体ではチラシは上演の1ヶ月前に製作する1種類のチラシしかありません。しかし、本作品ではタイトルや基本情報だけを周知する「速報チラシ」を製作し、少しでも人目につく機会を増やすようにしました。このチラシは、一つ前の公演で初めて配布した他、多くの学生が行き交う学園祭でも配布しました。後者では、過去公演の衣装を着て行うことで、団体のスタッフワークの高さなどもアピールすることができました。
5-2. CM製作
前回までの公演のTwitterアナリティクスから、CMによる広報方法がリアクションがいいことに注目し、公演CMを製作しました。この映像のポイントとしては縦画面映像の採用が挙げられます。縦画面にすることで、Twitterでの表示領域の拡大や縦書きの小説風レイアウトによる無音再生への対策を可能にしました。現にこのCMは話題を呼び、弊団体のツイートとしては異例の反響を呼びました。また、映像は脚本の構成を踏まえ5つのバージョンを製作し、公演後でも楽しめる工夫がされました。
5-3. 特設サイト設立
作品の世界観や見所をより深く周知できる方法として、特設サイトを設けました。小説版やアニメ版といった、既にあるコンテンツとの差別化を図るため、特設サイトを活かした企画なども行いました。学生劇団ゆえの遊び心や面白さと、学生劇団らしからぬクオリティの高いコンテンツの提供を目指しました。
5-4. 学外での宣伝活動
本作品を構成するキーワードとして「京都」「森見登美彦」の2点が挙げられます。広報のターゲットとして「観劇初心者」を据えていたため、この要素を如何にして上手く活かせるかが鍵となりました。そこで、これまで以上に学外とのコラボやコンタクトを増やしました。従来の宣伝方法では関われなかった多くの出会いをきっかけに、様々な層にまで注目される作品が製作できました。
(京都のラジオ局への生出演)
(京福嵐山線へのポスター掲示)
(『#ツキタタミ』をハブにした京都観光マップ)
6.上演記録
準備期間:2017年12月末〜2018年10月末
公演期間:2018年11月中旬〜2018年12月25日
本番日 :2018年12月20日(木)〜22日(土)/全5ステージ
参加者数:29名
総集客数:598名
上演時間:135分
場所 :立命館大学衣笠キャンパス学生会館小ホール
原作 :森見登美彦(太田出版)
企画製作:立命館大学新演劇研究会劇団月光斜